青木一平法律事務所

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相続の放棄や相続財産の管理について

最終更新:2023年8月15日

はじめに

相続が開始したものの、被相続人(亡くなった人)のプラスの財産よりも借金の方が多いような場合に検討すべき相続放棄の手続きや、 相続財産の管理義務等につき解説します。

相続の対象

相続人は、相続開始の時から、基本的には被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。
不動産や預金、有価証券といったプラスの財産だけでなく借金などの債務も相続します。
例えば、被相続人が金融機関から借入れをしていた等被相続人が債務を負担していた場合、債権者との関係では、 その債務は法定相続分の割合で分割して共同相続人が負担することになります(大審院昭和5年12月4日決定)。
共同相続人間で、債務の負担割合を決めたとしても、その負担割合は債権者に対しては意味を持ちません。
被相続人が誰かの保証人になっていた場合の保証債務も例外ではありません。
よって、プラスの財産よりも債務の額の方が大きい場合は相続放棄を検討することになります(民法915条)。

相続の放棄をすべき期間

相続人は、放棄をするのであれば、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に手続きを取る必要があります(民法915条1項)。
この3か月の期間を「熟慮期間」といいますが、最高裁は、「相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた時から 3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、 民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である。」 旨判示しています(最高裁昭和59年4月27日判決)。

また、熟慮期間内に相続人が相続財産の状況を調査しても、なお、単純承認、限定承認又は相続放棄のいずれをするかを決定できない場合には、 家庭裁判所は、申立てにより、この3か月の熟慮期間を伸長することができます(民法915条1項ただし書)。

相続の放棄の方式及び効力

相続の放棄をする場合は、家庭裁判所に相続の放棄の申述をしなければなりません(民法938条)。
具体的には、相続放棄申述書や戸籍謄本等を、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に提出することになります。
相続放棄申述書の書式や記載例は裁判所のページにも掲載されています (相続放棄申述書の書式等はこちら)。

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

相続の放棄と代襲相続

相続放棄をした場合、代襲相続はおきません。
例えば、Aが死亡し、その子Bが相続放棄をした場合、Bの子CはAを相続しません。

代襲相続の詳細についてはこちらをご確認ください

単純承認と限定承認

「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」 とされています(民法915条1項)。ただし、この熟慮期間内に相続人が相続財産の状況を調査しても、 なお、単純承認、限定承認又は相続放棄のいずれをするかを決定できない場合には、家庭裁判所は、申立てにより、 この3か月の熟慮期間を伸長することができます(民法915条1項ただし書)。
「単純承認」をした場合、無限に被相続人の権利義務を承継します(民法920条)。
「限定承認」は相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をすることをいいます(民法922条)。 「限定承認」は、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければなりません(民法924条)。

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなされます(民法921条)。
 ① 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び民法602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りではない。
 ② 相続人が民法915条1項の期間内(原則は相続の開始があったことを知った時から3か月)に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
 ③ 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、 又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、 この限りでない。

よって、相続が開始されたとしても、すぐに相続財産を処分したりせず、相続の放棄が必要か否かを検討し、原則3か月以内に決断しなければなりません。
また、相続の放棄をする場合や相続の放棄をした場合は、相続財産を処分しないよう注意しなければなりません。

相続の放棄に関する間違いや上記以外の注意点

相続の放棄は、家庭裁判所に申述をしなければなりません。
相続人の間で、相続しない旨を表明したとしても、それは、法律上の相続の放棄ではありませんから、 債権者との関係では全く意味を持たず、債務を相続してしまいます。
被相続人の債務を相続したくないのであれば、家庭裁判所への申述という方式を取る必要があります。

なお、相続の放棄の申述をすると、申述をした人は、初めから相続人とならなかったものとみなされますから、 債務もプラスの財産も相続しません。 借金等の債務だけ相続せずに、預貯金や不動産等のプラスの財産は相続するという都合のいい手続きではありませんので注意が必要です。

相続財産の管理

「相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、 この限りではない。」とされています(民法918条)。
また、「限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。」とされています(民法926条1項)。
さらに、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、 相続人又は第952条1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、 その財産を保存しなければならない。」とされています(民法940条1項)。 なお、相続を放棄した者による管理を定めた上記民法940条は、2023年(令和5年)4月1日に施行された新しい条文です。
改正前の旧民法940条1項は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、 自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と規定されていました。

改正前の旧民法940条1項は、相続の放棄をした者がどの程度の管理義務を負担するのかが不明でしたが、民法940条が改正されたことにより、 相続を放棄した者による管理義務が明確になりました。
相続の放棄をする場合は、放棄をするまでは、固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならず、 2023年(令和5年)4月1日以降は、 相続の放棄をした後は、放棄をした時に相続財産を占有していた場合は、相続人又は清算人に相続財産を引き渡すまでは、相続財産を保存しなければなりません。 逆にいえば、相続放棄のときに、相続財産を占有していなければ、放棄後は、保存義務を負わないことになります。

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